【８・ドラマ デビュー】
見るからに高級そうなマンションの玄関口にはガラス張りの警備室があり、警備員が出入りする者をチェックしていた。
は警備員の男性に軽く頭を下げて、ガラスのドアの前に立った。
ドアの横の壁にはカメラと押しボタンつきのインターフォンが設置されている。暗誦番号を打ちこむか、中から開けてもらえない限り、居住スペースへは入れないシステムになっているのだ。はＦａｘに記された部屋の番号を押し、呼び出した。
チャイムの音が数回鳴り響いた後、スピーカーから、ひどくしゃがれたイリヤの声が答えた。
『はい。…あれっ？ ちゃん？』
カメラに向かって、は話しかけた。
「こんにちは！ お荷物をいただきに来ました！」
『自分で取りに来てくれたんだ！ ありがとう。じゃあ、部屋まで来てくれるかな』
インターフォンが切られ、ドアのカギが自動的に開く。はドアを押して中に進んだ。ちょうど開いていたエレベーターに乗りこむ。
Ｆａｘに書かれた階の部屋の前まで行き、ドア横のインターフォンを押す。一瞬、魚眼レンズが暗くなり、ドアが内側から開かれた。
「いらっしゃい。どうぞ入って。こんな格好だし、散らかってるけど」
「お邪魔します」
もごもごと呟き、は頭を下げて、部屋の中へ入った。広々として日当たりのいい部屋をざっと見て、３ＬＤＫとは踏んだ。「散らかっている」とイリヤは言ったが、必要最低限の物しかない簡素な室内は、適度に片付いている。
時折、咳きこみながら、イリヤはをリビングに招き入れた。パジャマの上にカーディガンを羽織った格好の上、顔がひどく赤い。
「お風邪…ですか？」
心配になってが尋ねると、イリヤはけだるげにうなずいた。
「２、３日前に、土砂降りを傘なしで走り回るシーンを撮影してね。調子を崩しちゃったんだ」
にソファにかけるように勧めると、イリヤは応接テーブルの上の、大きくて重そうな紙袋を差し出した。
「２年前に放映された時の『ガラスの星座たち』のビデオ全巻と台本と脚本のノベライズが入ってる。ちゃんの役づくりの参考になるんじゃないかと思って、早めに渡したかったんだ」
「ありがとうございます！」
はイリヤの心遣いに感激して、紙袋を受け取った。
「私、『ガラスの星座たち』は毎週観てました。最終回は大泣きしちゃったのを覚えてます。まさかそのドラマに出演できるなんて感激です！」
思わず握りこぶしで熱く語ってから、はふと我に返った。慌てて持っていたビニール袋を差し出す。
「これ、お土産です」
来る途中、モトハルにスーパーに寄ってもらって買った果物の缶詰である。本当は箱菓子を購入したかったのだが、缶詰以外の物を潰さずに運ぶ自信がなかったのだった。
「ありがとう」
イリヤは缶詰を受け取ると、キッチンに続くドアを開けた。途端に焦げ臭い匂いが部屋に漏れ出す。
「あっ、しまった！」
イリヤがガス台に駆け寄って、鍋のかかっていた火を止める。思わずも近づき、換気扇のスイッチを入れた。イリヤと一緒に鍋の中を覗くと、炭化した物体が底にこびりついているのが分かった。
思わず、イリヤの顔をまじまじと見てしまう。バツが悪そうにイリヤは頭をかいた。
「…腹が減ったから、おかゆを作ろうとしたんだけど、作り方がよく分からなくて…。コンビニへ買いに行ったほうが良かったな」
黒焦げの鍋とイリヤの顔を見比べ、は思い切って頼んだ。
「良かったら、私に作らせてもらえませんか？」
※※※※※
それからは大張りきりで働いた。数十分後にはイリヤは寝室のベッドに身を起こし、の作った卵のおかゆと缶詰の桃を食べていた。
「…どう…ですか？ 味つけは薄くないですか？」
恐る恐るが聞くと、イリヤは「…ごめん。熱のせいか、味がわからないんだ」と情けない顔で答えた。
「…ああ、そうですよね」
なんとなくしょんぼりしてしまったに、イリヤは慌てて付け足した。
「でも、黒焦げのおかゆよりは絶対においしいよ。ありがとう」
それではフォローにならないと思いながらも、イリヤの思いやりが嬉しくて、は微笑んだ。
会話がとぎれ、沈黙が訪れる。だが、イリヤの傍にいれば、その瞬間もまた、不思議と心地よかった。黙って、イリヤの食事を見守っていると、イリヤがぽつりと尋ねた。
「ソロデビューと渡米の話、少しは考えてもらえたかな？ “ＷＨＡＴ’Ｓ ＯＮ”では上手くごまかしてもらったけど、話題が表に出てしまった以上、オレの所属事務所も黙っていなくてね。…不安もあると思うけど、どんな時だって必ずオレが支える。だから、一緒に来てくれないか？ Ｌ．Ａ．へ」
ドギマギしながら、はうつむいた。
「…ごめんなさい。正直、まだ決心がつかないんです。もう少しだけ待ってもらえませんか…？」
「…そうか…」
イリヤは答えを予測していたけれど、やはりガッカリした…というように肩を落としている。は不思議になって尋ねた。
「どうして、そんなに一生懸命なんですか？ イリヤくんならプロデューサーとしての仕事以外に、歌手でも作曲でも俳優でも、お仕事はいくらでもあるのに」
しばらく考えこんだ後、イリヤはなにかに納得するようにうなずいた。
「…そうだな…。きっとＭｉｎｋちゃんのおかげだよ。彼女をプロデュースして、オレは初めて、自分の感性でアーティストを育てる喜びを知ったんだ。だから “ＧＩＬ”を立ち上げた。誰かの心に眠ったままのキラメキを、オレの曲で目覚めさせたくてね。…他のどんな仕事よりも、今のオレにはプロデューサーとしての仕事が大切なんだ」
イリヤの言葉には、切ないまでの憧れがこもっていた。その切なさはＭｉｎｋへの届かない恋心ではないかという想いが、の脳裏に浮かんだ。
…なぜか胸が痛んだ。そして、痛んだことに、自身が驚いた。
「風邪が移ったかな…？ 顔色が悪いよ？」
心配そうにイリヤに顔をのぞきこまれ、は慌てて笑顔を作った。
「大丈夫です！」
動揺を悟られないように、はイリヤが食べ終えた皿をお盆に取り、ぎこちなく立ち上がった。
「洗い物して来ますね！」
キッチンで後片付けを終えたは、再びイリヤの寝室に顔を出した。薬が効き始めたのか、イリヤは静かな寝息を立てていた。
『お鍋にスープを作っておきました。トーストと一緒に、温め直して食べてください』
走り書きしたメモをサイドボードの上に置く。眠るイリヤの表情は子供にかえったようにあどけなかった。普段の凛々しい姿からは想像もつかない。
「早く良くなってくださいね」
ベッドから斜めに落ちかかっていたかけ布団をそっと直しながら、はささやいた。その時、ベッドの下に数枚の楽譜が散らばっているのをは発見した。
サイドテーブルから落ちたのかと、何気なく拾い上げる。それは現在、作曲中の譜面らしく、五線譜いっぱいに音符が書きこまれていた。何気なくタイトルを見て、は息を呑んだ。
タイトルを書く箇所には、クセのあるイリヤの文字で“Ｆｏｒ ”と書かれていた。
ソロデビュー用の曲を、もうイリヤは作り始めているのだと知って、はドキドキするのと同時に、いまだに迷っている自分に罪悪感を覚えた。
それからすぐに、は自分のバッグとイリヤから預かった荷物を持って、部屋を出た。
※※※※※
週明け、緊張しながら、はモトハルと共に、『ガラスの星座たちＳＰ』の撮影現場に赴いた。
「初めまして。です。よろしくお願いいたします」
ペコリと頭を下げたに対して、監督を始め、スタッフの視線が、どこかしら冷たいのが気にかかった。
「撮影がおしてるから、早速入ってもらうよ」と指示され、メイクルームに入る。準備している間も、裏方のひそひそ声が耳に入る。
「女王様の気まぐれにも困ったもんだ。どうして今頃、こんな素人を呼んで来させたんだよ？」
「このコも散々いびられて、追い出されるのが関の山じゃない？ カワイソ〜」
「可哀想なのは、こっちだよ。このままじゃ放映自体がお蔵入りかもしれないんだぜ」
撮影が水原愛純のワガママで難航しているという、叶花の情報は真実だったらしい。
―このお仕事、引き受けるべきじゃなかったのかな…？―
不安になって、ついつい後ろ向きに考えてしまうのを、は懸命にこらえた。
―引き受けるって、自分で決めたんだもん。まだ撮影も始まってないのに、弱気になっちゃだめ―
今日の撮影は、セットで病室のシーンのまとめ撮りだった。愛純とのからみが中心である。だが、午前中の撮影は散々な結果となった。
「カット！ やり直し！」
「カット！ カット！ もう一度！」
「カット！ カット！ カット！ だめだ、だめだ！ やる気あるのか!?」
ＮＧに次ぐＮＧ。監督に怒鳴られる度には萎縮し、とちる回数が増えていった。しまいには「セリフくらい覚えて来い！」と監督はメガホンを放り出し、なし崩しに昼の休憩に入ってしまった。
自分専用の控え室で、渡されたお弁当に口もつけず、はしょげ返っていた。モトハルがスタッフに詫びを入れに出かけたため、控え室がますます、暗く冷え切っているように感じられた。
突然、控え室のドアがノックされた。が「どうぞ」と答えると、ドアが開いて、なんと水原愛純が入って来た。の顔を一目見るなり、愛純は「ふん」と鼻を鳴らした。
愛純はつかつかと近づくと、突然、の両頬を両手でパチンッと叩いた。
「い、痛いっ！？ いきなり何をするんですかっ！？」
ひりひりする頬を押さえ、が涙ぐんでいると、愛純は腰に両手を置いたポーズで、ビシビシ言った。
「しゃんとしなさい！ あなた、アイドルでしょう？ アイドルはファンに夢や希望を与えるのが仕事なのよ。下を向いている暇があるなら、今、自分にできることを探しなさい！」
「なんで、そんなことを愛純さんに言われなきゃいけないんですか！ 大体、もともとの俳優さんを追い出したのは愛純さんなんでしょう！？」
ムッとして言い返すに、愛純は「あなたも追い出して欲しいってわけ？」と答えた。
「お生憎さま。あたしはあなたを追い出す気はないわ。降板を自ら申し出るか、まともな演技をするか、あなたが取れる道は２つに１つよ」
あまりの言われように、の目にじんわりと悔し涙がにじんだ。それを見て取ったのか、愛純の声のトーンが少し下がった。
「…、あなたはなぜ、この仕事を引き受けたの？ 女優になれる、いいえ、なりたいと思ったからじゃないの？ 少なくとも“ＷＨＡＴ’Ｓ ＯＮ”であたしと対等にやりあった時のあなたは、今よりずっと前向きで輝いていたわよ」
言いたいだけ言って、愛純はさっさと控え室を出て行った。愛純がいなくなった後も、はしばらくショックで涙ぐんでいた。
いっそ逃げ出してしまいたい…。無性にそんな気持ちにかられた時、の携帯が鳴った。
表示された番号を見ると、イリヤからの電話だった。慌てて出ると、まだいくぶん、しゃがれたイリヤの声が聞こえて来た。
『もしもし、ちゃん？ この前は本当にありがとう。おかげで熱も下がったよ』
「…イリヤくん…」
イリヤの声を聞いた途端、なぜかホッとして、涙声になってしまった。イリヤの声が不審げに変わる。
『ちゃん？ どうしたんだい？ 水原になにかされたのか…？』
「う…ううん。そうじゃないけど…」
否定する声に力が入らない。それと察したのか、イリヤの口調がこちらを気遣う、優しいものになった。
『…じゃあ、ちゃんには特別に、オレのとっておきの“元気が出るおまじない”を教えてあげよう』
「おまじない…ですか？」
…イリヤとおまじない…。なんだか、とっても不釣合いな組み合わせである。だが、イリヤは大真面目な口ぶりで続けた。
『いいかい？ キミの大好きな花が咲く瞬間を思い浮かべて、こう唱えるんだ。“ブラッサム、ブラッサム。私はもっとすてきになれる”。そして、とびきりの笑顔を作るんだよ』
「なんですか、それ？ そんなおまじない、初めて聞きましたよ」
はつい声を立てて笑ってしまった。笑われたイリヤは不快な様子も見せず、むしろ嬉しそうに言った。
『うん。ちゃんはそうやって笑ってるほうが、絶対にかわいいよ。元気を出して。オレがついてる』
…おまじないのききめの真偽はともかく、イリヤと話したおかげで、気持ちが軽くなったのは確かだった。お礼を言って、は電話を切った。
電話の後、再び控え室のドアがノックされた。愛純が戻って来たのかと、は一瞬身構えたが、現われたのはモトハルだった。
「大丈夫か？ 泣いてないか？」
心配そうなモトハルには微笑みかけ、首を横に振った。
「ううん。それより、モトハルくんにたくさん頭を下げさせてしまって、本当にごめんなさい」
「いいんだよ。これがオレの仕事だから。…辛かったら降板してもいいんだぞ？ 心配するな。違約金くらい、いくらでも払ってみせるから」
モトハルは「わっはっはっ」と豪傑笑いをしてみせたが、その笑いはかすかに裏返っていた。バード・ミュージックの経営が火の車だということは、元事務スタッフのが一番よく知っている。ただでさえ武闘館ライブの一件で借金が増えたというのに、これ以上、事務所に負担をかけるわけにいかないことも分かっていた。
背水の陣に臨むつもりで、はモトハルに向かって、ガッツポーズを取ってみせた。
「大丈夫！ 絶対に降板はしないわ！ ダメもとで頑張ってみる！」
の決意に、モトハルは「そうか」とうなずいた。モトハルは手を伸ばし、の髪をくしゃっと撫でた。
「無理はするなよ。オレも精一杯バックアップするから、やれるだけやっておいで」
※※※※※
休憩時間が終わり、撮影現場に戻ると、はまず監督のところへ行き、大きな声で挨拶した。
「午前中は本当に申し訳ありませんでした！ 心を入れ替えて頑張りますので、どうぞよろしくお願いします！」
落ちこんだ様子を全く見せないに、監督も気おされるように「ああ、頼むよ」と答え、スタッフの間にも「おや、この娘はまだやる気だぞ？」というような空気が広がった。
そして、午前中とはやや違った雰囲気で、撮影が再開された。
ダメもとだと開き直ったのが良かったのか、それともイリヤのおまじないが効いたのか、の気持ちの変化は、演技にも反映された。
連発していたＮＧもなくなり、スタッフからも「おい、これ、ひょっとしたらイケるんじゃないのか？」という会話が漏れ出した。
スタッフに混じって、撮影を見ていたモトハルは、周囲の変化を感じ取り、ホッと胸を撫で下ろした。
撮影は順調に進み、とうとうその日ラストの撮りになった。
花束を持って、制服姿で病室に現われた愛純…は、ベッドの上に座り、母親役の俳優とオセロをやっているに、驚いて話しかけた。
「『！ 起きていても平気なの!?』」
振り返ったは、はにかんだ微笑を浮かべた。
「『うん。心配かけてごめんね。この頃、気分が良くて、さっきも庭を散歩してきたところなんだ』」
に釣られるようにも微笑み、花束を差し出した。
「『これ、お見舞いだよ』」
「『うわあ、きれいだね！ …それにいい香り！ ありがとう、！』」
オセロを片付けた母親が、娘から花束を受け取り、ベッド脇の棚から花瓶を出して、病室を出て行く。
一方、は慣れた様子で、ベッド脇のスチール椅子を引き出して腰かけた。からかうようにに問いかける。
「『本当に元気そうだね。あんなに落ちこんでたのがウソみたい。なにかいいことでもあったの？』」
は照れた様子で「えへへ」と笑った。
「『実は、ちょっとすてきなひとを見つけたの』」
「『え!? やだ、ったら、いつのまに!? どんな人なのよ？ 入院患者さん？ それともお医者さん？』」
「『違うの。ボランティアの人らしいんだけど、週末ごとに病院の庭で入院患者さんのための、ギターの弾き語りミニコンサートを開いている人がいるんだ。あの人のギターを聴くと、なんだか気持ちが穏やかになって、幸せになれるの。そしたら、いつまでも落ちこんでる自分がバカらしく思えて来ちゃって…』」
ガタッ。が膝に乗せていた学生かばんを取り落とした。その顔はひどく青ざめ、震えている。はおろおろと、友に手を差し出した。
「『どうしたの!? 気分でも悪くなった？ ナースコールしようか？』」
スチール椅子の背にしがみつくようにもたれながらも、は気丈に首を横に振った。
「『大丈夫。…が会った人は、あたしも良く知ってるわ。彼はあたしと…一緒に育った……従兄なの』」
「『……？』」
気になっていた人の手がかりを得た喜びと、友がその人の存在を苦しげに口に出したことへの驚きから、の瞳が見開かれる。
「カット！ ＯＫ！ お疲れ様！」
監督の声に、は安堵の息をついた。今日の撮りが無事に終了したのだ。セットのベッドから降りたところで、は監督に声をかけられた。
「ずいぶんよくなった。明日もこの調子でいってくれ」
「は、はい！ ありがとうございますっ！」
明日もまた撮影に加われる嬉しさに、は床に着きそうなほど、深く頭を下げた。
※※※※※
控え室へと戻るに、モトハルが駆け寄って来て、肩を叩いた。
「お疲れさん。よくがんばったな」
「家まで送ろうか？」という冗談交じりの誘いを丁重に断り、は１人で控え室に戻った。衣装を着替え、メイクも落として、控え室を出る。
だが、一歩部屋を出たところで、は固まってしまった。控え室の向かい側の壁にもたれるようにして、ジョニ田が立っていたのである。
は控え室に逃げこむ機会を願って、じりじりと後ずさった。
「そう怯えるなよ。取って食やしねーって」
ジョニ田は唇の片方だけ上げて笑い、胸ポケットからタバコとライターを取り出した。１本取ってくわえ、カチリと音を立てて火をつける。煙が流れてきて、は咳きこんだ。
「撮影は、いい感じでスタートしたみたいじゃねーか？ あんたを選んだ女王様の判断は正しかったってこった」
嫌味か褒め言葉か判断しかねていると、ジョニ田が苦笑した。
「おいおい、褒め言葉くらい素直に受け取れよ。監督とスタッフの評判も上々だぜ。『最初はどうなるかと思ったが、あの新人の娘、なかなか良くやってる』ってな」
携帯用灰皿を取り出し、灰を落としこむと、ジョニ田は言葉を続けた。
「…聞きたい事があるんだ。なんで、あんたがあのテープを返したかって事だ」
は「…それは…」とうつむいた。
ジョニ田は背広のポケットから録音機を取り出すと、再生ボタンを押した。聞き覚えのあるジョニ田のセリフが繰り返された。
『…あんたに惚れてるって言っても、また冗談にしか受け取ってもらえねーんだろうな。だが、オレはあんたに一生ついていくぜ。どんな道をあんたが選ぼうとな』
の表情の変化を見て、ジョニ田は苦笑した。サングラスを外して、まともにと目を合わせる。ジョニ田の素顔が意外と若く、整った顔立ちをしている事には面食らった。
「あきれたお嬢ちゃんだな。…確かにこのテープが表に出たら、オレ達の企てた計画よりも、オレ達の関係のほうが面白おかしく取り上げられちまうだろう。それを心配して、テープを返してくれたって訳かい」
「…だって、大切に想ってるんでしょう、愛純さんを…？」
「どうだかな」
冗談めかしてジョニ田は言ったが、瞳は笑っていなかった。もまた真剣な表情でジョニ田を見つめていた。ジョニ田は録音機からテープを取りだし、床に落として踏みつけた。鈍い音がして、テープは２つに割れた。テープを拾い上げ、ジョニ田はニヤリと笑った。
「あんたとイリヤのスキャンダルを撮れっていう、女王陛下のご命令はまだ有効でね。タレント潰しのジョニーの名にかけて、オレはしばらく、あんたを追わせてもらうぜ」
「そんな…！ 困ります！」
「オレは困らないさ。どうせ狙うなら、あんたみたいなカワイイコがいいしな。いいネタを期待してるよ」
ちゅっと投げキッスをに送ると、「また会おうぜ」と言い捨てて、ジョニ田はくるりとに背を向けた。そのまま歩き出し、右手をひらひらと振る。
テープを返した判断は間違っていたのではないかと悩みながら、ジョニ田の後ろ姿をは呆然と見送った。
続く
＜あとがき＞
看病なら、するよりされるほうが萌える気がしますが、弱ってるイリヤくんも良いってことで…（爆）
ここのところ筆の進み具合が遅くてすみません。やっぱりドラマとか滅多に見ないのに、
今時の面白いドラマ脚本を書いてみようっていうのが、そもそもの間違いでしょうか？（滝汗）
『ガラスの星座たちＳＰ』は、トレンディドラマというより、昼ドラみたいなストーリー展開に
なりつつあります…（爆）神無月の意外（？）な弱点は『普通の恋愛が書けない』らしいっス（汗）
次回で撮影のカタはつけますので、今しばらく昼ドラに（笑）お付き合いくださいませ（平身低頭）
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