【１５・時空嵐】
傷だらけのひどく疲れ切った姿で鏡が現れ、に「逃げろ」と告げた。
突然、廊下がすうっと暗くなったかと思うと、一瞬だけ再び明るくなり、轟音がとどろいた。同時にゴーッという鈍い音が響き始める。
驚いてが廊下の窓を見ると、いつのまにか空は黒雲に覆われており、激しい風雨が事務所のあるビルを叩いている。吹きつける風の強さに、事務所の入っている古いビルはかすかに振動していた。
「さっきまで晴れてたのに!?」
避難場所を求めて、手近な建物に駆けこむ通行人や、風にハンドルを取られるのか、蛇行しながら走って行く車を、はビックリして見下ろした。いきなり季節外れの台風でもやって来たようだった。
が外を見ている間に、再び雲間から閃光が走り、ほぼ同時に割れんばかりの雷鳴がとどろいた。たまらず首をすくめて、この天気では、社長もモトハルも手頃な場所に逃げこんでいるだろうと考える。
「…鏡、来て」
窓から離れると、はぐいっと鏡の腕を掴んで、事務所へと戻った。
「何…してるんだ…？ ボクにかまわず逃げろ…！」
息を切らしながら抗議する鏡の顔を、ちらりと見て言い返す。
「ケガ人を置いて行けるわけないでしょ？ 大体、こんな天気なのに、誰が追いかけて来るのか、なぜ逃げるのかも分からなくて、どこへ逃げろって言うのよ？」
は鏡を応接のソファに座らせた。給湯室で甘いミルクティをマグカップいっぱいに淹れ、片手にカップ、もう片方の手に救急箱を持って、鏡のところへ戻る。
「ホラ、飲んで」
鏡の手にマグカップを押しつけると、救急箱から殺菌消毒薬を取り出した。
「…少ししみるかもしれないけど」
の言葉を聞いて、慌てたように鏡は「旧世紀の治療方法は必要ない」と片手を上げて制した。「でも、手当てはちゃんとしないと」とが言い返すと、鏡はポケットから銀色のテープのようなものを取り出して、に手渡した。
「これを傷口の上から貼るだけでいい。この程度の傷なら、すぐに再生する」
どうやら銀色のテープは２０９９年製の絆創膏のようだった。はうなずいて、手際よくテープを傷口に貼って行った。実際に治療してみると、ほとんどがかすり傷だと分かって、一安心する。
「よし、終わり」
が顔を上げた時には、鏡の手にあったマグカップの中身は空になっていた。空になったカップを見て、は初めて鏡がの勧める飲食物を口にしたことに気づいた。
「あっ、あれ!? …そう言えば、鏡は違う時代の飲み物って飲んじゃいけなかったんだっけ…!?」
鏡が今までお茶を飲まなかったことを、ど忘れしていた自分に腹を立てながら、おずおずと鏡の顔を見る。の困りきった様子に、鏡は微笑んだ。
「いいんだ。…本当はボクもずっと、キミ達と同じ物を飲んだり食べたりしてみたかった」
マグカップを返しながら、鏡は「とても美味しかった。ありがとう」と告げた。
褒められたのは嬉しかったが、鏡の態度が何かを諦めているようにも思えて、は微笑み返せなかった。
「鏡、お願い、教えて。一体、何が起こっているの？」
鏡はそれには答えずに立ち上がった。
「まずはここから移動しよう。ここの座標（ポイント）なら、すぐに見つかってしまう」
鏡が片手の指を軽く動かすと、一瞬のうちにと鏡は、何もない宇宙空間のような場所に移動していた。二人の足元の遥か下には、ＳＦ映画のＣＧめいた近未来ふうの都市が広がっている。
「きゃっ!?」
下を見るなり、は悲鳴を上げて鏡の腕にしがみついた。鏡は苦笑して、の腕を軽く叩いた。
「怖がる必要はない。見えているのは全て、ヴァーチャルリアリティで作り出したホログラムだ」
鏡が片手の指を再び動かすと、半透明の丸い床が二人の足元に広がった。恐る恐るは足踏みしたが、ふわふわとした浮遊感があった場所に、今は確かな床の感触が伝わって来た。
ホッとしては鏡から手を放し、ペタンと床に腰を下ろした。立っているよりも、手をついて座っているほうが、下があまり見えない分、安心感があった。
「ここはボクが作り出したプライベートな電脳空間だ。ここにいれば、しばらくは安全だろう」
腕組みをして生真面目に言う鏡に、は「安全ってどういうこと？ 私を追っているのは誰なの？」と聞き返した。深く息をつくと、鏡はを見下ろして言った。
「キミを追っているのは、Ｍｉｎｋｌｅを捕まえたのと同じ、“追跡者（チェイサー）”と呼ばれる連中だ。…彼らは、連邦の最高特務機関、サイバーセキュリティ。時空管理における犯罪者を追跡・捕獲するための特殊部隊だ」
聞き覚えのある名称には眉をひそめた。
「サイバーセキュリティ…確かそれって…昔、鏡を逮捕した人達のこと？」
「ああ、そうだ。…そして、サイバーセキュリティ部門は、現在のボクの時空管理局内の所属部署でもある。時空の流れの調査・補修を担当するボクと、戦闘要員の“追跡者（チェイサー）”とでは仕事の内容は違うけど、ボクらに命令を下す上司は同じだ」
淡々と述べる鏡に、はギョッとして、鏡の顔をまじまじと見上げた。
「…それって…つまり…鏡の同僚の人達が今、私を探しているってこと？ …じゃあ、鏡が私を逃がしたりしたら、まずいじゃない」
鏡は足元に映る未来都市に視線を落とした後で、ぽつっと「かまわない」と呟いた。
「こんなことになったのは、もともとボクのせいなんだから…」
そして、鏡は説明を始めた。
「去年の３月９日、時空嵐が起こって、Ｍｉｎｋｌｅが閉じこめられたのは覚えているだろう？ ボクはあれからずっと、時空嵐が起こった原因の究明を進めていた。…調べていくうちに、時空嵐を引き起こしたのは“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”だと分かった。だけど、正常に“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”が機能していれば、時空嵐のような異常事態を引き起こすなんてありえない。だから、ボクは再び同程度の時空嵐が起きて、“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”の異常をチェックするチャンスを待っていたんだ。…でも、二度目に起こった時空嵐の規模は、ボクの予想を遥かに超えていた。キミもさっき、時空嵐がＷＡＮＮＡ−ＢＥを通して吹き出た様子を見ただろう？ 今、キミの時代の座標（ポイント）を襲っているのは、今までとは比べものにならない、すさまじい時空嵐なんだ」
みんくから聞いたことを思い出しながら、は尋ねた。
「時空嵐って確か『時空のゆがみがひどくなって、大量の電磁波が発生した状態』なんだよね。…それって天気が荒れる以外でまずいことがあるの？」
「もちろん」と鏡はうなずいた。
「本来、時空はいくつもの筋に分かれた巨大な川の流れのようになっている。時空嵐は…そうだな。川に起こる雨や風のようなものだ。小さなものならば、川の表面にさざ波が立ったり、水の量が少し増える程度で済むけど、規模の大きい暴風雨に襲われると、川の流れ自体が変わってしまう。…つまり、歴史の流れが狂って歪められてしまうんだ。生まれるはずのものが生まれず、出会うはずのものが出会わなくなる。未来が全く別のものになってしまう」
未来が変わってしまうなどという、突拍子もない話に、はゾッとして身震いした。
「…じゃあ結局、“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”の異常の原因は分かったの？ それさえハッキリすれば、元通りに時空を直せるんでしょう？」
鏡は悲しげに瞳を伏せ、あいまいに頭を振った。
「原因はハッキリした。でも、ここまで時空嵐の規模が大きいと、ボクも確実に補修できる自信がない」
「…鏡、教えて。時空嵐を引き起こしている原因って…一体、なんなの…？」
鏡はゆっくりと視線をに移した。そして、余命を患者に宣告する医師のような、重々しい声音で告げた。
「…時空嵐の原因は“”、キミだ。キミと“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”が同調して、時空を歪ませているんだ」
※※※※※
“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”と同調していると鏡に言われて、の胸に真っ先に芽生えたのは『良く分からないけど、とにかく納得がいかない』という思いだった。憤然として、語気荒く鏡に言い返す。
「同調ってどういうこと!? 私は今まで“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”を使ったことなんて、一度もないんだよ!?」
「ああ、キミは今まで自ら“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”を使用したことはないし、ボクが“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”の提供を申し出た時も、それを拒否した。…だから、ボクも去年の時空嵐に“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”が関わっていることを突き止めた後、その原因は“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”の使用者である、Ｍｉｎｋｌｅの３人のうち誰かにあるはずだと考えていたんだ」
驚くほど冷静に鏡はうなずいた。
「…じゃあ、どうして私のせいだなんて言うの…？」
「確かに、、キミは『自分の意思』では“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”を使用したことはない。…でも、キミは一度、Ｍｉｎｋｌｅが“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”で変身する最中に立会い、変身時に発生するエネルギーを直接、その身体に浴びた経験があるはずだ」
は、Ｍｉｎｋｌｅの変身は何度も見たが、エネルギーなんて受けた覚えはないと言い返そうとして、ふと口ごもった。思い当たる場面が一度だけあった。
初めて、がバード・ミュージック事務所へ行った時、まさにＭｉｎｋｌｅが変身する瞬間に遭遇してしまった。が事務所の扉を開けた時、目の前で三人が携帯電話を掲げていて、次の瞬間、眩しい光が辺りを覆いつくした。ハッキリ覚えてはいないが、その時に鏡の言う『変身のエネルギー』を受けたのかもしれない。
「…で、でも、私も一緒に変身したわけじゃないし、ただ眩しかっただけで、どうってことなかったよ？」
どうってことはあるのだと言いたげに、鏡は憂うつそうに頭を振った。
「“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”はユーザーの心とリンクして、“なりたい自分”になるという目的を達成させるソフトだ。Ｍｉｎｋｌｅの変身のエネルギーは、キミ自身も気づかないうちに、キミと“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”を同調させ、キミの行動に影響を与え続けて来たんだ。…ボクは実際に２０９９年に戻って、キミと “ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”が同調したことで、歴史がどう変わってしまったのかを調べた」
そして、鏡は恐ろしい事実をに告げた。
「…、もともとの歴史の流れでは、キミはただ、あの日、Ｂ・Ｍ事務所を訪れ、鳥海モトハルに面会して帰宅後、二度とＢ・Ｍ事務所と関わることはなかった。…でも、何かが狂って、キミは本来、事務所を訪れるはずだった時間より、一時間早く到着し、Ｍｉｎｋｌｅの変身のエネルギーを受けて、 “ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”と同調してしまった。…そして、アイドル“”として、本来とは違う時間を過ごすことになってしまったんだ。そのひずみの結果が、時空嵐になった。一度は去年の３月９日。そして、また今、更に大きな規模の時空嵐が起こってしまった」
「…ウソ…。私がみんなと出会うはずじゃなかったなんて…。…そんなのウソでしょ？ 鏡!?」
思わず立ち上がり、鏡の両肩を掴む。だが、鏡はゆっくりと頭を横に振った。
「本当だ。…キミが歩んできたこの一年は全て、現実には起こらなかった“夢”のようなものなんだ」
「…じゃあ、今、ここにいる私はなんなの！？」
に肩をつかまれたまま、鏡は真っ直ぐにの瞳を見つめ、真剣な表情で言った。
「…逃げるんだ、。司令…つまり、ボクの上司は、ボクの報告を受けて、今回の時空嵐を『補修不可能』と判断した。時空嵐を引き起こした原因であるキミを消去（デリート）して、時空の流れを強制的に元に戻すように命令を下したんだ。…ボクは司令に逆らって、同僚を振り切り、一人でキミのいる座標（ポイント）へ戻って来た。このままでは、キミはサイバーセキュリティに捕まって、消去（デリート）されてしまう。その前に逃げるんだ」
「…そんな…逃げるってどこへ…？」
鏡はの手を自分の肩から外すと、ズボンのポケットから携帯電話を取り出し、の手に握らせた。
「これはＭｉｎｋｌｅの携帯電話と同じ機能を持っている。これを使って、過去でも未来でもいい、なるべく遠くの違う時空へ跳べ。そして、ひとつの時空には長く留まらず、移動を繰り返すんだ。“追跡者（チェイサー）”がキミを逮捕する前に、時空嵐は必ずボクが補修してみせる」
は携帯電話を握り締めたまま、呆然と立ち尽くした。…だが、ある事実に気づき、慌てて頭を振った。
「ダメだよ！ 私が逃げたら、サイバーセキュリティに捕まってる、みんくちゃん達はどうなるの!?」
「！ キミは、せっかく頑張って来たこの一年を、全てなかったことにされてしまってもいいのか!?」
苛立たしげに鏡は叫び、そして、眼鏡の奥の瞳を寂しげに光らせた。
「…ボクは嫌だ。キミはこのボクを“友達”だと呼んでくれた二人目の人なんだ」
鏡が危険を承知でサイバーセキュリティに逆らったのは、友達であるを守るためだと分かって、は胸がいっぱいになった。
「…ありがとう、鏡…」
携帯をポケットに突っこむと、空になった両手で鏡の手をギュッと握り締める。鏡の手は初めて会って握手した時と変わらず、暖かく柔らかだった。唐突なの行動に、鏡は眼鏡の奥の瞳を驚きで丸くし、それから恥ずかしそうに微笑んだ。
その時、がらんとした空間にビープ音が流れた。どこからともなく機械音が『２０９９年、時空管理局カラあくせすデス』と告げる。鏡は「来たか…」と呟くと、「アクセスＯＮ」とハッキリ発音した。
同時に二人の前に巨大な四角いウィンドウが現れた。ギョッとしてあとずさるの肩に軽く手を触れ、鏡はなだめるように説明した。
「ただの映像…ホログラムフォンだ。キミ達の時代で言う“テレビ電話”が進化したものだ。心配ない」
窓の向こうには、軍服めいた服装に幅広のサングラスをかけた青年と、スレンダーな体にピッチリした服を着た三人の女性が映っていた。三人の女性を背後にしたがえた青年は、落ち着いた低い声で鏡に話しかけた。
『鏡・Ｊ・ファーウェル。おまえがわたしの命令に逆らい、をかくまっていることは既に分かっている。即刻、彼女を引き渡しなさい』
「…司令、そして、“追跡者（チェイサー）”」
鏡はをかばうように、その前に立ち、ウィンドウに向かって呼びかけた。
「今回の一件は“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”が原因であり、は被害者です。時空嵐は“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”の開発者であるボクが、必ず補修します。ですから、を消去（デリート）せよとの命令を取り消してください」
鏡の言葉に、司令は眉根をひそめた。
『連邦公認特Ａ級プログラマーのおまえでも、今回のような規模の時空嵐は荷が重過ぎる。時空のほころびはますます大きくなり続けている。このままでは歴史の流れが変わり、大災害が巻き起こってしまう。それだけはなんとしても防がねばならないのだ。命令は取り消さない』
「…待ってください！ Ｍｉｎｋｌｅは…みんなはどうしているんですか!? あなた方が逮捕したんでしょう!?」
ウィンドウの向こうにみんく達の姿が映りはしないかと、は身を乗り出して叫んだ。司令はに視線を移し、サングラスの奥の瞳を哀れむように細めて告げた。
『確かに、わたしはＭｉｎｋｌｅの存在が、あなたの逮捕の障害になると判断し、一足先に“追跡者（チェイサー）”にＭｉｎｋｌｅを拘束するように命じました。だが、Ｍｉｎｋｌｅは現在、わたしの監視内にはいません』
司令の言葉を、“追跡者（チェイサー）”のうちの一人、ロングヘアの女性が引き取った。
『われわれの目の前で、ＭｉｎｋｌｅはＷＡＮＮＡ−ＢＥの“転送”（ムーブ）機能を使用して逃走した。彼女達が現在いる座標（ポイント）は、われわれでも近づけない、時空嵐の中心付近なのだ。おそらく“転送”（ムーブ）機能が上手く働かずに、時空嵐に閉じこめられたのだろう』
女性の言葉にうなずくと、司令は命令することに慣れた口調で言い放った。
『…。今すぐサイバーセキュリティに投降しなさい。われわれは至急、あなたを消去（デリート）して、時空の流れを強制的に元に戻さねばならない。さもなくば、あなたが住んでいる場所、時代が大きな被害をこうむることになるのです』
「無茶です、司令！ 中心部にＭｉｎｋｌｅを巻きこんだ状態で、時空嵐を強制的に消去（デリート）しては、今度はＭｉｎｋｌｅの命が危険にさらされてしまう！ 下手をすると、時空の流れに巻きこまれて、Ｍｉｎｋｌｅの存在自体が消えてしまうかもしれない！ そんな命令は到底、承服できかねます！」
鏡が食ってかかると、司令は軽くあしらった。
『“現在”のＭｉｎｋｌｅは、本来は起こるはずのない時間を生きている存在だ。そのＭｉｎｋｌｅがどうなろうと、サイバーセキュリティの関知するところではない。大切なのは、時空の流れを本来の歴史に戻すことだ』
司令の背後で“追跡者（チェイサー）”達が口々に言いつのる。
『鏡！ おまえの作り出した電脳空間にだって、こちらは簡単に踏みこめるんだ！』
『くだらない抵抗は止めて、投降しろ！』
『せっかくのキャリアをムダにして、時空犯罪者に戻るつもりか!?』
鏡と彼らのやり取りを黙って聞いていただったが、たまりかねて怒鳴った。
「それしか方法がないって言うのなら、おとなしく投降します！ …でも、一度だけチャンスをください！ Ｍｉｎｋｌｅを助けて、時空嵐を補修できるかどうかは、やってみなくちゃ分からないでしょう!? 試してみることもせずに、ただ諦めるなんて嫌です！」
の言葉は思いもよらなかったらしく、司令の表情が驚きの色に染まった。…呼吸三つ分ほど沈黙した後、司令は静かに言い放った。
『いいだろう。ただし待つのは、そちらの時間で“一時間”だ。それ以上は与えられない』
「…ありがとう！」
まさか、こうもあっさりと承諾してくれるとは思わなかったので、はホッと息をついた。だが、平然と司令は言い返した。
『時空嵐に巻きこまれて、あなたの存在が自動的に消滅してくれれば、鏡・Ｊ・ファーウェルも、わたしの命令に従わざるを得なくなる。こちらも余分な手間が省けるというものだ。…健闘を祈る』
が悪態をつく前に、ウィンドウは空中から消滅し、会話はとぎれた。
「……司令にあんなことを言って、どうするつもりだ？」
不安げな鏡に、は力強く言った。
「決まってるじゃない。Ｍｉｎｋｌｅを助けて、時空嵐を補修するの。私はみんくちゃん達を助けに行くから、鏡は時空嵐の補修をお願い」
「一人で時空嵐の中心部に向かうなんて無茶だ。補修だって、たった一時間でなんて…」
絶望に満ちた表情を見せる鏡に、は微笑みかけた。
「ダメだって思う前に、まずやってみようよ。…だって、私はまだ諦めたくないよ。今、こうやって、あなたと話している私が“本当はいない”だなんて、認めたくないもの」
は鏡からもらった携帯電話を宙にかざして叫んだ。
「“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ” ＳＴＡＮＤ ＢＹっ …「起動（セットアップ）」！！！」
携帯から電磁波が走り、次の瞬間、そこには虹色の髪をして、銀色に輝く衣装を身にまとった、とびきりの美少女が立っていた。
「電脳少女☆、参上！ …なんちゃって♪」
ピシッとポーズを決めると、はわざとおどけて、鏡に向かってウィンクした。
「気をつけて」
の冗談に、無理に微笑もうとする鏡に、はそっと告げた。
「…鏡は私のことを友達だって言った二番目の人だって言ったけど、鏡を大切に想っている人はたくさんいるよ。司令だって、“追跡者（チェイサー）”達だって、一言もあなたを責めなかったじゃない。みんな、鏡を心配してるし、無事に２０９９年に戻って来て欲しいんだよ。…だから、未来に帰っても、…例え、私がいなくなってしまっても、きっと大丈夫だよ」
これはなりの別れの挨拶なのだと気づき、鏡の瞳が見開かれる。
「…っ！？」
「…また後で…逢えるといいね」
精一杯微笑んで告げると、は携帯を再びかかげて叫んだ。
「おねがい“ＮＥＴＷＯＲＫ” −…「転送（ムーブ）」！」
続く
＜あとがき＞
次で最終回です！ …上手くまとまれば…多分…（爆）本当は今回で終わらせられたら良かったんですが、もうちょっと長くなりそうなので、この辺で次にひっぱることにしました（予定は未定（汗））。この連載では“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”を使わずに、あくまで素で頑張るヒロインを描きたかったんですが、やっぱり
“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”での変身シーンは一度はやってみたかったんですよね〜。Ｍｉｎｋファンの永遠の憧れじゃないですか、“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”の変身シーン（笑）やっと変身できて、すごく嬉しいです♪ 今回、つじつまを合わせるために、ちょっと複雑な設定を詰めこみ過ぎた気もします。いろいろツッコミとかあると思いますが、見逃してやってください（汗）
前へ戻る 次へ進む
小説ＴＯＰへ戻る