【１４・ラスト コンサート】
Ｂｌｏｓｓｏｍ解散コンサートのタイトルは『Ｆｌｙ ｍｅ ｔｏ ｔｈｅ Ｍｏｏｎ〜新世紀のかぐや姫伝説〜』だった。
月からやって来た５人の姫が、地上でたくさんの人達と触れ合い、惜しまれながらも月へと帰って行く。そういう流れで構成されている。
オープニングは、十二単めいた衣装姿の５人が、スモークが立ちこめるステージに歌いながら舞い降りるという、幻想的なシーンだった。今日がラストコンサートとあって、ファンの熱狂は最高潮に達しており、オープニングの段階で、オールスタンディング状態だった。
最初の曲を歌い終えた５人が着物を脱ぎ捨てると、その下から活発なミニスカートが現れる。動きやすい服装になったＢｌｏｓｓｏｍは、ステージを縦横無尽に駆け回りながら、次の曲に移った。
熱いライトと大歓声の下、全身汗だくになって、思う存分に歌い、ダンスしながら、は最高の幸せを感じていた。
やがてＭＣに入り、Ｂｌｏｓｓｏｍ５人それぞれが、１人ずつ得意な歌や楽器を披露し、ファンに今まで応援してくれた事への感謝の言葉を告げた。
も大好きな曲『』をアカペラで歌った。歌い終えると、マイクを握り締め、たった一人でスポットライトの中に立った。
無意識に最前列を探すと、厳しい表情で愛純がを見つめているのが分かった。おそらくの言葉を今か今かと待ちかねているのだろう。
は深呼吸し、自らを鼓舞するように、しっかりと胸を張った。そして、の挨拶を静まり返って待っている、大勢のファン達に向かって、口を開いた。
「皆さん、今日は私たちのために来てくださって、本当にありがとうございます！ 今日、私は皆さんにひとつ、重大発表があります！ 今日で、Ｂｌｏｓｓｏｍは解散しますが、私はソロ活動を始めることになりました」
予定外の発言に観客席がざわめき、マスコミが色めき立つ。モトハルの驚いた声がの耳にかすかに届いた。
「!? 何を言い出すんだ!?」
とっさにステージの袖を見やったは、困惑顔で口々に何か言っているモトハルと仲間達に、心の中で詫びた。ひと呼吸おいて言葉を続ける。
「私が今度からお世話になるのは…」
愛純の名前を言おうとして、声が裏返ってしまい、は言葉を詰まらせた。だが、しっかりしなければと自分に言い聞かせて、お腹に力をこめて、再び口を開く。
…しかし、が発言する前に、激しい爆音が大空に響いた。スタッフも観客もマスコミも、その場にいる者全てが驚いて、空を見上げる。
「ヘリコプターだ！」
誰かが叫んだ。確かに一機のヘリコプターが低空飛行をしながら、東京ドームを真っ直ぐ目指して来る。やがて、ものすごい爆音と風と共に、ヘリはステージのほぼ真上で停まった。
風圧のため、半ば吹き飛ばされるように、はステージの袖に押しやられた。
ヘリのドアが開き、縄ばしごが投げられると、漆黒の影がそれを伝って、ステージに舞い降りた。
無事に地上に降り立った人物が上空に向かって手を振ると、それが合図だったらしく、ヘリコプターは旋回して、上空から姿を消した。
突然の出来事にが硬直していると、漆黒のライダースーツに身を包んだ相手はに駆け寄り、マイクを奪い取った。
「移籍は取り止めだ」
鋭い声が耳元でささやく。は大観衆の前にも関わらず、腰を抜かしそうになった。派手な演出のように空から現れたのは、行方不明だったはずのイリヤだった。
会場の大画面にイリヤの顔が大写しになり、突然のイリヤの乱入に観客席が大騒ぎになる。
「キャーッ！？ イリヤー!!!」
大歓声の中、自身、ひどく混乱しながらも、マイクを取り戻そうと夢中で手を伸ばした。
「ダメです。愛純さんが見てます。私がここで話さないと、Ｂ・Ｍ事務所がなくなってしまう…！」
「もういいんだ。Ｂ・Ｍ事務所はなくなったりしない」
「ウソ。だって、愛純さんが…」
イリヤは真剣な瞳で言った。
「帝国テレビが交わした土地の売買契約はまだ正式なものじゃなかった。正式な契約に持ちこむ前に、ビルと土地の持ち主を鳥海社長が説得してくれた。契約はされなかったんだ。もうＢ・Ｍ事務所は水原の思い通りにはならない」
「え!? 社長!?」
ステージの袖を振り返ったは、信じられない思いで両目をこすった。モトハルの隣に、見覚えのある熊のぬいぐるみそっくりの中年男性が笑顔で立っていたのだった。
「真帆子ちゃんとモトハルくんのお父さん、帰って来たんだ…！ 良かった！」
大きく息をつき、慌てて客席を見る。イリヤが現れたことで、計画が失敗したことを悟ったのだろう。さっきまで愛純が座っていた席は空になっていた。
から取り上げたマイクを持ち、イリヤは朗々とした声を放った。
「のソロ活動は、オレが全面的に支援します。そのため、バード・ミュージック事務所社長、鳥海真さんのご協力のもと、バード・ミュージック事務所とＧＩＬが協力した形での、新しいプロジェクトを計画しています」
「え…!? それって…」
驚きの声を上げるに、マイクを口元から離して、イリヤは微笑んだ。
「キミはＢ・Ｍ事務所から移籍しなくていいんだ。今の事務所のまま、ソロデビューさせると鳥海社長も約束してくれた」
モトハルを困らせてばかりいる、ちゃらんぽらんな社長の言葉がどこまで信用できるのか、イマイチ不安もあったが、イリヤの言葉はにとって何よりも嬉しかった。
イリヤからマイクを手渡されたは、ようやく心からの笑みを浮かべて、弾んだ声で、会場の大観衆に告げる事ができた。
「皆さん、これからもどうぞ、よろしくお願いします！」
次の瞬間、拍手と大歓声が、東京ドームに木魂した。
※※※※※
アンコールが鳴り止まなかったラストコンサートのステージも無事終わりを告げた。
ファンの出待ちを防ぐため、Ｂｌｏｓｓｏｍの五人は時間差で会場を出ることになった。もっともモトハル達スタッフは知らないことだが、Ｍｉｎｋｌｅの三人はＷＡＮＮＡ−ＢＥの転送機能があるので別行動である。残った二人のうち、先に有香が出発することになり、は控え室へ一人、戻った。
衣装を着替え、メイクも落としてスッキリしたところで、は別室で待っていてもらったイリヤの元へ走った。イリヤには聞きたいことが山ほどあった。
別室のドアをノックして、返事を聞くのももどかしく、思い切り押し開けると、控え室にはイリヤと共にくつろぐジョニ田の姿があった。
「イリヤくん…と堀田さん!? 堀田さんがどうしてここに!?」
イリヤは微笑んで、うなずいた。
「彼の情報網のお陰で鳥海社長を見つけられたんだ。キミからもお礼を言いたいんじゃないかと思って、帰るのを待っていてもらったよ」
「お礼って…？」
訳が分からないと首を振るに、イリヤは丁寧に説明した。
「オレが行方をくらませたのは、鳥海社長を探すためだったんだ。キミの移籍を止められるのは、彼だけだと思ったから。…でも、いくら探しても見つからず、困っていた時に、今度はオレを探してジョニ田さんが現れた。それで、オレからジョニ田さんに社長を探す手伝いを頼んだんだ」
ジョニ田は不快そうに顔を歪めて、「その呼び名は止めてもらおうか」と抗議した。「失礼」とあっさり詫び、イリヤは言い直した。
「堀田さんの協力で、鳥海社長が見つけられて、Ｂ・Ｍ事務所のビルと土地の売買をギリギリ、今日のコンサート開始までに止めさせることができたんだよ」
イリヤのスキャンダルを狙っていたはずのジョニ田が、なぜＢ・Ｍ事務所を救う手助けをしてくれたのか、はあまりにも意外なイリヤの言葉に、まじまじとジョニ田の顔を見た。
「なぜ、鳥海社長を探してくれたんですか？ 堀田さんは愛純さんの味方なのに、愛純さんの意志に逆らう真似をするなんて」
身を乗り出して尋ねるに、ジョニ田はニヤリと笑ってみせた。
「あんたには帝国テレビは向いてねーと思ったからだよ。つぶれかけのＢ・Ｍ事務所がお似合いだ」
「…真面目に答えてください」
ムッとしてが唇を尖らせると、ジョニ田は真顔になった。
「そうだな…。あえて言うなら、“タレント潰しの勘”ってやつだよ。確かに帝国テレビに入っても、あんたならいい仕事をするだろう。…だが、イリヤと組ませたほうが、もっとでかいことをしでかしてくれる、そんな気がしたんだ。せっかくのスクープの種を潰しちまうのは惜しいってね」
『タレント潰しのジョニー』というジョニ田のあだ名を思い出し、は眉根を寄せた。派手に潰されるために当座の危険を救われたと聞いても、ちっとも嬉しくない。だが、続いてジョニ田は、少しためらいがちに付け加えた。
「…それに、ガッカリさせたくなかったんだ、あいつを」
「…え？ あいつって誰ですか？」
「愛純お嬢さんだよ。…彼女が欲しがったのは、思い通りにできる人形じゃねー。天下の帝国テレビ社長令嬢とも、素で仲良くなっちまうような、素直なあんた、“”なんだよ。あんな手立てで引き抜いても、あんたは気持ちを閉ざしちまって、彼女が望んだ“友達”は、どこにもいなくなっちまう。後でそれに気づいて、ガッカリするあいつを見たくなかったんでね」
「愛純さんが私を友達に…？」
大先輩のトップアイドルである愛純が、駆け出しのを『友達』として見ているという、ジョニ田の言葉には目を丸くした。
「彼女はワガママなご令嬢だが、根は素直だ。…こんな事はオレから言うもんじゃねーが、これからもあいつの友達でいてやってくれ」
ジョニ田にらしくもない神妙な面持ちで頭まで下げられ、は慌てて答えた。
「私…愛純さんが好きだし、尊敬してます。…移籍するのは嫌だったけど、でも、愛純さんの下で働くなら、やりがいがあるだろうなって確かに思ったし、…だから、これからも愛純さんとは今まで通りにお付き合いしたいと思ってます。それで愛純さんにとってのお友達になれるのなら…嬉しいです」
ジョニ田は、の答えに満足したように頬を緩めた。
「あの…それより、イリヤくん失踪の記事は、雑誌に載ってしまうんですか？」
おずおずとが尋ねると、ジョニ田は大仰に肩をすくめてみせた。
「下手な記事を書くと、オレが失踪に一枚噛んでた事が、愛純お嬢さんにバレちまうからな。今回はカンベンしといてやるよ」
ホッとして、がお礼を言おうとしたのも束の間、意地悪く笑って、ジョニ田は言い足した。
「…その代わり、今日の派手なイリヤの登場は、『イリヤと、熱愛発覚!?』って大々的に宣伝してやるよ。他誌より早く、もう原稿は会社に届いている頃だ。スクープさせてくれてありがとよ」
お礼を言いかけたの唇が再びとんがる。恨めしげなの視線をさらりと交わし、ジョニ田は椅子から立ち上がった。
「じゃあな。次号の週刊『Ｓｃｏｏｐ』を必ず買ってくれ」
うそぶくと、ジョニ田はひらひらと片手を振って、部屋から出て行った。
「もうっ、堀田さんの意地悪っ！」
地団太を踏んで悔しがるに、二人のやり取りを黙って聞いていたイリヤが、クスクス笑った。
「いいじゃないか、記事の内容は事実なんだから」
「じ…事実って…」
たちまち真っ赤になるに、イリヤは優しく笑いかけた。
「…オレはちゃんが好きだし、ちゃんもオレを好きでいてくれてる。そうだろう？」
「イリヤくん…」
ぽうっとなってしまったに、打って変わって真剣な表情でイリヤは告げた。
「今夜の飛行機でＬ．Ａ．に戻るよ。あちらでは“ＧＩＬ”の新プロジェクトのためのオーディションが始動するから、しばらく日本には帰って来れないと思う」
イリヤが言っているのは、自分がソロデビューするはずだった“Ｂｌｏｏｍｉｎ’！ Ｐｒｏｊｅｃｔ”だと気づいて、はうつむいた。ガイア・プロの移籍を止めた時点で諦めていた事だったが、自分以外の女の子をイリヤが大勢の中から選び、プロデュースするのだと思うと、胸がキリキリと痛んだ。
の悲しげな表情を見て取り、イリヤは神妙な面持ちで椅子から立ち上がった。のすぐ側に歩み寄り、目の高さに合わせてかがみこむ。
「オレの力が至らないばかりに、キミを苦しめて本当にすまない。…でも、約束するよ。今のオレはまだ事務所の意向に左右されてしまう新人プロデューサーだけど、必ずもっと力をつけてガイア・プロからは独立する。…そして、正式にキミを迎えに行くよ。鳥海社長と約束した、Ｂ・Ｍ事務所とＧＩＬが協力する新しいプロジェクト…つまり、“”のソロデビューは、独立への最初のステップにするつもりなんだ」
「頑張るから。オレを信じて待っていて」とささやかれ、は強くうなずいた。
「はい、私、いつまでも待ってます！」
イリヤはの表情が明るくキッパリとしたものに変わる様子を、嬉しそうに見守った。そして、イリヤの顔が自然にに近づいた。今度はも戸惑う事なく、瞳を閉じてキスを受け入れた。
ほんのわずかの時間の後、名残惜しそうにから離れると、イリヤはいたずらっぽく言った。
「そんなに長く待たせるつもりはないよ。…それに、ちゃんのために作った曲は、他の誰にも歌わせるつもりはないから、安心して作詞に取り組んで欲しいな」
作詞の話題を出されて、はぐっと詰まった。移籍やイリヤの行方不明騒動で、イリヤが作ってくれた曲に詞をつける約束をしていた事を、すっかり忘れていたのだった。
何も言えず、目を白黒させているに、イリヤは楽しそうに声を上げて笑った。それはが久しぶりに見た、イリヤの特上スマイルだった。
※※※※※
イリヤがＬ．Ａ．に発った後、は忙しい毎日を送り始めた。
歌手としてのソロデビューはイリヤの帰国待ちだが、“ＷＨＡＴ’Ｓ ＯＮ”でのトークや『ガラスの星座たちＳＰ』の演技が評価されて、ドラマやバラエティ番組からの出演依頼が押し寄せたのである。週刊『Ｓｃｏｏｐ』の記事もスキャンダルとして扱われるよりもむしろ、ソロ活動に向けたいい宣伝効果になったくらいだった。Ｂｌｏｓｓｏｍは解散してしまったが、今や人気アイドルの仲間入りを果たした“”は、どこの局でも引っ張りだこだった。
仕事に出かける時、欠かさずが持ち歩く物が二つあった。一つはイリヤが作曲してくれた曲を録音したＭＤ。これは空いた時間に、曲に合う歌詞を考えるためだった。そして、もう一つは、結局イリヤに渡しそびれてしまった、編み上がった片方だけの手袋だった。
時差の関係で、互いの時間が合わず、電話よりもメール中心、そのメールも忙しさに途切れがちな日々が続いた。だが、『次にイリヤくんに会う時には、ちゃんと歌詞を完成させて、手袋と一緒に渡そう』という思いが、を勇気づけてくれた。
―今、自分にできる仕事を頑張って、ただ、イリヤくんを待てばいい。―
そう思っていたの周囲が一変した始まりは、鳥海社長の意外な行動からだった。
その朝、事務所に出勤して来たは、テディベアが相変わらずとぼけた顔で載っている社長の机を、当の鳥海社長がごそごそとかき回しているのを見つけた。
「社長、おはようございます！」
元気良く挨拶するに、社長はぬいぐるみ然とした、おっとりとした笑顔で「おはよう、くん」と返した。
「今朝はお一人なんですね。…社長、何かお探し物ですか？」
いつもなら、モトハルか真帆子が一緒にくっついているのだが、今日は珍しく社長一人で出社して来たようだった。
「そうなんだよ。そう言えば、くんが事務仕事も引き受けてくれているんだってね。…すまないが、通帳の類がどこに閉まってあるか、知らないかね？」
「いえ、貴重品は社長代理のモトハルさんが全て管理されているので、私では分かりかねます」
が正直に首を横に振ると、社長は照れたように「モッくんも真帆子もうちの奥さんに似て、しっかり者だ。のん気なおじさんには似なくて良かったよ」と笑った。それからふと思い出したように、社長はの肩を軽く叩いた。
「…ああ、そうだ。くん、イリヤさんが申し出てくれたキミのソロデビューは、おじさんができる範囲の根回しを整えたよ。後はイリヤさんの帰国を待つだけだね。マネージャーの仕事はおじさんよりモッくんのほうが上手だから、後はモッくんに任せても大丈夫だよ」
のほほんと言っているが、実は鳥海社長はスカウトマンとしては腕利きで、業界でもかなり顔が広いらしかった。Ｂ・Ｍ事務所の経営がどんなに悪化しても、これまで持ちこたえて来たのは、そうした業界の信頼もあったためらしい。その社長が自分のデビューに向けて、準備してくれていたと知り、は嬉しくなって、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます」
「いやいや、くんはおじさんの命の恩人だからね。これくらいはしておかないと」
そう言うと「さあて」と呟いて、社長は大きなバッグを取り上げた。
「ちょっと外回りに出て来るよ。モッくんが来たら、おじさんの机の引き出しを見るように言ってくれるかな」
「あ、はい。行ってらっしゃいませ」
お茶を淹れようとして、給湯室に向かいかけていたは、社長の行動を良く見ていなかった。だが、「出かける」の言葉に慌てて振り返り、頭を下げた。社長はほんわかと笑って軽く片手を振り、バッグを抱えて事務所から出て行った。
それから数分後、何か大切な物を忘れたような、ひどくもやもやとしたものがの頭を巡っていた。だが、何を忘れているのか、全く見当もつかない。
「…なんだろう…何か…すごく変な気分…」
う〜んと考えこんで、事務所に出勤してから、今までの出来事を思い返す。そして、最後の最後で、フッと記憶に引っかかっていたものが蘇った。思わず声に出して叫んでしまう。
「今、社長が持って出たのって…旅行用のバッグだったよ！？」
慌てて、社長の机の引き出しを開くと、中はきちんと整理されていて、一枚の紙が入っていた。紙には大きな文字でただ一行、『また旅に出ます。探さないでください』と書かれていた。
「…やられた…」
がうめき声を上げるのと、事務所の電話が鳴り出すのは同時だった。飛びつくようにして電話に出ると、予想通り受話器の向こうからあせりまくったモトハルの声が響いた。
『そこにいるのはかっ!? おやじ、そっちに行ってないか!?』
「さっきまでいたんですけど、旅行用バッグを持って、出て行っちゃいました！」
『逃げられたか！ あの放蕩おやじっ！』
『すぐにそっちへ行く。もおやじを探してくれ』と言い置いて、モトハルは電話を切った。
は慌てて今度は自分の携帯を手に取り、真帆子の携帯に電話した。だが、電源が切られているらしく通じなかった。続いて、みんく、叶花の携帯にもかけるが、どの電話番号も『おかけになった電話は現在、電波の届かない区間にあるか、電源が入っておりません』と繰り返すだけだった。最後の頼みの綱の合宿所も呼び出しベルが鳴り響くだけで、誰も出る様子がない。ＷＡＮＮＡ−ＢＥの「検索（サーチ）」機能で鳥海社長を捕まえてもらおうとしたは、あてが外れた思いで電話を切った。
こうなったら仕方ない。自力で走って追いかけようとが事務所を飛び出した時、ふいにの目の前の空間が揺れた。体のあちこちに傷が出来、ひどく疲れ切った様子の鏡・Ｊ・ファーウェルがそこには立っていた。
「鏡！ どうしたの!? ケガしてるじゃない！」
驚いてが駆け寄ると、鏡はガクリと膝を折って、その場に崩おれた。
「救急箱…どこだっけ!?」
社長を探さなければいけない事も忘れて、が事務所に戻りかけると、鏡はの服の袖をぐっと掴んだ。かすれた声が細い喉から漏れる。
「…逃げ…ろ…、…。あいつらが…来る。…早く…」
「え？」
「…時空嵐（タイムストーム）…だ。この前の規模とは比べものにならない。…Ｍｉｎｋｌｅはもう捕まった…」
「鏡!?」
呆然と立ちすくむに、鏡は血走った目つきで告げた。
「…早く逃げるんだ！ さもないと…、キミは消去（デリート）される！」
続く
＜あとがき＞
やっとここまで来ました〜（ホッ）今回、ライブシーンはすんなり書けたんですが、その後のジョニ田さんの釈明とか、イリヤくんとの甘甘シーンがなかなか進まなくて、ずいぶん時間がかかってしまいました。本当はＢｌｏｓｓｏｍの解散コンサートは去年のクリスマスイブにアップの予定だったんですけど…（滝汗）あと、ごめんなさい。神無月は東京ドームって行った事がありません（汗）どうせなら派手に登場させようと思って書きましたが、ヘリコプターでステージに下りるなんて、現実には多分、無理じゃないかと思います。すみません〜。ではでは、一年以上も続いた話のラストシーン、皆さんのお気に召すかどうか分かりませんが、もうちょっとですので、よろしくお付き合いくださいませ。
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